霊泉寺の夕暮れ(1)
松本に向かう道中、鹿教湯温泉のほど近くで見かけた「霊泉寺温泉」の看板。
霊泉寺という名前の響きが気になって、帰路途中で寄り道。
表の道路から脇道に入り、細い川に沿った小径を進んでいくと、
山に囲まれたほんの少しの平な土地に、田んぼや畑が広がる。
静かでひと気のない、だけどきちんと手入れされた田畑の風景。
もう少しで集落かな……という辺りで、小川が流れ込む沢を見つけ、
引き寄せられるように車を降りて近づいてみる。
林の木陰の中にあって、吹いてくる風がなんとも涼しい。
岩が大きく削られ、不思議かたちの淵ができていた。
青く深い水底は、眺めていると吸い込まれそうになってくる。
「稚児ヶ淵」というこの淵。
名前の由来が脇に立つ看板に解説されていた。
昔、霊泉寺のお稚児さんが淵の近くで出会った美しい娘に夢中になり、
「あの娘は魔物だから会うてはならん」と諭されながらも通い続けた。
そしてある日、娘が淵の中から手招きしているのを見て、迷わず飛びこんでしまった……。
……分かるなあ、その気持ちは。
そんな背景があるからということもあるけれど、
辺りには何ともいえない雰囲気がある。
夕方頃の夏の光が差し込む林はすごく美しい場所だった。
そこからまた更に奥へ進んでいくと、小さな集落が見えてくる。
車を降りると、温泉の独特な匂いがしてきて、なんとも言えず嬉しくなってしまった。
……
by thinking_grove
| 2010-08-08 16:32
| 長野